LIVE REPORT 8



BIG BAND! Last Updated 2018-06-16


 no.8

ジーコ伊勢のジャズ観戦記 2

ブルースをベースにした伝統と革新の融合

JCB presents CHRISTIAN McBRIDE BIG BAND
2014.9.5[fri] Motion Blue YOKOHAMA
ジーコ伊勢
*BIGBAND! 誌 No.21に関連記事が掲載されています。

 現代ジャズ・ベース界を代表する俊英・クリスチャン・マクブライドが自らのビッグバンドを率い、日本のファンの大いなる期待を集めながら、ビッグバンドとして初めての来日ステージをモーション・ブルー・ヨコハマで披露した。
 オープニングはスウィンギィで豪華なブルース曲「Walk On」。途中で光沢のあるグレーのスーツを着た恰幅の良いクリスチャン・マクブライトが登場。骨太で重厚なベースが加わり、サウンドに立体的な厚みが生まれ、ステージがより華やかな雰囲気に包まれる。
 次の「Killer Joe」は、1954年にテナー・サックス奏者・ベニー・ゴルソンが書いたブルース曲。(ゴルソンは、クインシー・ジョーンズやオリバー・ネルソンと並んで、1950年代から60年代にかけてのハード・バップ最盛期における代表的なジャズ編曲者の一人)
 トランペットを中心にした管楽器のブルージィで重厚なリフとピアノのタテに入るミディムテンポのリズムが印象的。この公演全体の雰囲気を象徴する曲のように思えた。導入部に続いてスティーヴ・ウィルソンのフルート、ブランドン・リーのトランペットの厚みのあるソロが続く。 
 3曲目に、ボサノヴァ調のリズムで始まる「Brother Mister」は、マクブライドの2009年のアルバム『Kind of Brown』(レイ・ブラウンへのトリビュート・アルバム)の中からのオリジナル曲。ザビア・デイビスの軽快で歯切れの良いピアノにのせて、管楽器同士が時には重層的に、また、はじき合いながら呼応するアンサンブル。マクブライドのアレンジによって曲の軽やかな魅力が引き出されている。途中のソロ、スティーヴ・ウィルソンのサックスの抑制の利いた演奏が楽曲の良さを引き出していた。
 4曲目に小粋な楽曲「Broadway」は、ビル・バード、テディ・マクレア、ヘンリ・ウッドによって1940年に書かれた曲。途中マクブライドの歌うようなソロのベースランニングが心地良い。彼が10代の頃、故郷のフィアデルフィアでのジャムセッションの中で学んだ曲で、通常、この曲はアップテンポでプレイされるが、彼は自分にとって最も自然な、クールでゆるやかなテンポでプレイするのを好む、と語っている(アルバム『The Good Feeling』 より)。ブロードウェイの舞台上の女性たちの踊りのステップを想起させるような華やかさをも見事に表わしている。
 5曲目からの女性ヴォーカリスト、メリッサ・ウォーカーが登場。(メリッサはマクブライドの妻である。)正統派の唄法、そして低音のきいた張りのある歌声。ビートルズやハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスのカヴァーで知られる「A Taste of Honey (蜜の味) 」を歌う。1960年に上演された同名のブロードウェイミュージカルのための曲で、ボビー・スコットが作曲。今回のものはメリッサのためのアレンジだが、マクブライドが敬愛するオリヴァー・ネルソンによる、ザ・テンプテーションズのためのアレンジを意識したものになっている。実は彼が幼い頃この曲を聴いたのは、1967年に発売されたモータウンのヴォーカル・カルテット、ザ・テンプテーションズのレコードだった。三拍子の軽快な管楽器のバッキングの上空を、「ワインより甘味な」蜜の味を知った蝶が舞うように、歌姫が愛の喜びを込めて軽快に歌いあげた。
 次の曲は「Upside Down」。ボサノヴァ調の軽快でリズミカルなピアノに合わせ、語りのあとに最初はやさしく、次第に伸びやかに歌い上げるメリッサの表現力の豊かさと幅の広さを感じることの出来る一曲だ。
 7曲目はメリッサ参加の最後の曲「The More I See You」。1966年にハリー・ワーレンによって書かれた曲で、マクブライドがフランク・シナトラとカウント・ベイシーへの敬意の念を持って、メリッサのためにアレンジした。ピアノだけをバックにした、ため息の混じるような少しけだるい歌のスタートから、ビッグバンドの切れのあるサウンドとともに伸びやかな歌声が響き、ゴージャスな演奏がドラマティックに展開される。
 8曲目に「I Thought About You」。1939年にジミー・ヴァン・へウセンが書いた、おさえきれない恋心を歌った切ないバラード。ジャズ・スタンダードとして、マイルス・デイヴィス、スタン・ゲッツ、ネイザン・デイヴィスのほか、歌手ではエラ・フィッツジェラルド、ダイナ・ワシントンなど数多くのミュージシャンたちが手がけた名曲を、演奏者としての力量は勿論のこと、ビッグバンドのアレンジャーとして見事にその才気を披露した。
 9曲目の「Sahara」は、1972年に発表されたマッコイ・タイナーの楽曲。当時の実験精神を今に活かしたかのように、ドラムソロからスタート。ドラムのユリシーズ・オーウェンス・ジュニアは、1984年生まれの若手の俊英ドラマーである。2012年、28歳の時に初のリーダーアルバム『Unanimous』を発表、その才能を遺憾なく発揮した。ベースにマクブライド、ピアノにクリスチャン・サンズが参加しており、同じメンバーのクリスチャン・マクブライド・トリオの延長上にあるアルバムと考えてよいだろう。ちなみにこのアルバムには今回来日したトロンボーンのマイケル・ディーズも参加している。
 ドラムソロの間、バンドのメンバーが皆、彼の演奏をじっと見つめていたのが印象的だった。それは、彼の演奏への興味と賛美であり、一方でベテランたちからの若き才能へのやさしい眼差しのようにも思えた。正確なテクニック、スリリングで変化に富んだ音の組み立て、モダン・ジャズの王道を行くような演奏はまさに、マブクライド好みであり、ビッグバンド、トリオ、いずれも彼のグループのドラマーとして参加しているところからも、その信頼の厚さが伺える。
 ドラムソロのあと、マクブライドの縦横無尽に躍動するベース、ザビア・デイビスの研ぎすまされたセンスのピアノが加わり、またサックスがソロをとる展開になり、モダン・ジャズの黄金期を彷彿させるかのようなスピード感とスリルに満ちた白熱の演奏が繰り広げられた。そこに、ジョン・コルトレーンやマッコイ・タイナーたちが築き上げた黄金時代のニューヨーク・ジャズの精神を受け継いだ後継者としての姿さえ浮かび上がってきた。
 10曲目は、ジャングルビートのリズムの「Gettin' To It」。1995 年のアルバム『Gettin' To It』のタイトル曲である。マクブライドのソウルフルな感性が表れた一曲。ワンコードでくり返されるリフはアメリカ南部の香りが漂い、マクブライドのソウルやブルースからの影響が現れた曲といえるだろう。彼はジェームス・ブラウンの大ファンで、J・Bのアルバムのコレクターでもあるという。その敬愛の念は、何と言っても今回の日本公演の司会にJ・Bの専属司会者を30年間つとめた、ダニー・レイを起用したことにも表れている。
ジャングルビートに乗ってグレッグ・ギスバートのトランペット、カール・マラーギのサックス、マイケル・ディーズのトロンボーンのリズミカルで軽快なソロが続いた。
 ブルースのリズムの歩みのように、今回の演奏曲は「Walk On」に始まり「Walk off」に終るという、夏の夜の夢を見るような見事に構成されたステージであった。
 マクブライドはオリバー・ネルソンの『ブルースの真実/The Blues and the Abstract Truth 』から、多くのものを学んだという。ネルソンが、1961年のこのレコーディングに、エリック・ドルフィーといった奇才や、ビル・エバンスといった芸術家肌の演奏家を起用した理由は、そこに期待やさらにいえば確信のようなものがあったからだろう。このアルバムは、発表後半世紀以上経った今でも、ミュージシャンたちに示唆を与えつづけている。
 マクブライドが『ブルースの真実』から学んだものは、ブルースというシンプルな音楽構造を基本にしながら、創造性を求め、さらに新たな解釈を加え、奥深い音楽を追求することの意味だろう。伝統と革新の融合こそがマクブライドの神髄でもある。ブルースだけではなく、幼い頃から聴き馴染んだソウル、ファンク、クラシックなど、様々な音楽がこのミュージシャンの中で血肉化され、彼独自のアレンジ、優れた演奏表現として還元される。
 今回のクリスチャン・マクブライド・ビッグバンドの公演は、ジャズの伝統に則しながら、楽曲的に、時にはポピュラーな要素、演奏的には基本をおさえながらの新しい表現といった色彩感を持った、幅広いジャズ・ファンの期待にも答える内容のものとなっていたように思う。
 しかし、全体に通底するのは「ブルースによって始まり、ブルースによって終る」ジャズであり、まさに通低音としてマクブライドの躍動感に満ちた強靭なベースが、ときには激しく、そしてブルージィに、ときには切ないくらい繊細に響く。彼のベースがどの曲においても核となり、芯となっていたことはいうまでもない。
 夜のニューヨークの街の喧噪、地下のバーのカウンターで交わされるジャズマンたちの怪しげな会話、男と女のあでやかで悲しい物語、そして都会に住む人々の孤独とため息。そういった入り交じった人間たちの感情が音による大小の波となって、様々なかたちでステージの上で繰り広げられているような気さえした。
 そうした演奏を体感しながら、この会場がまるでニューヨークのライブハウスであるかのような錯覚さえ憶えた。豊穣な音空間の中で、何もかも忘却のうちに引き込まれてしまう舞台。おそらく会場である夜のヨコハマの赤レンガ倉庫、異国の香り漂う〈場〉が演出した一夜の物語だったのかも知れない。

CHRISTIAN McBRIDE BIG BAND
Christian McBride(leader,b)
Xavier Davis(p)、Ulysses Owens, Jr.(ds)、Melissa Walker(vo)
Nabate Isles、Brandon Lee、Freddie Hendrix、Greg Gisbert(tp)
James Burton、Joseph McDonough、Micheal Dease、Douglas Purviance(tb)
Ron Blake、Daniel Pratt、Steve Wilson、Todd Bashore、Carl Maraghi(sax)
[演奏曲目]
1、Walk On
2、Killer Joe
3、Brother Mister
4、Broadway
5、ATaste of Honey
6、Upside Down
7、The More I See You
8、I Thought About You
9、Sahara
10、Gettin' To It (tentative)
11、Walk off

2011年のビッグバンドのアルバム『The Good Feeling』 からは、「Brother Mister」「Broadway」「ATaste of Honey」「The More I See You」の4曲が演奏された。

別名:伊勢功治[いせ・こうじ]
富山県生まれ。グラフィク・デザイナー、桑沢デザイン研究所非常勤講師。2013年、「マリオ・ジャコメッリ写真展」(東京都写真美術館)デザイン担当。著書に写真評論集『写真の孤独』(青弓社)、詩画集『天空の結晶』(思潮社)。『北方の詩人 高島高』近刊予定。

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